ライ麦畑でつかまえて

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)

 これまでアメリカ文学にはほとんど縁がありませんでした。この本を読もうと思ったのは、「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」の背景を知りたかったからです。で、京都往復の電車の中で読んだのですが、この本に堅苦しい「古典」というイメージを持っていたのが、まったく想定外の内容と展開に、思わず「なんじゃこりゃー」という呻き声が出てしまって困りました。
 さて、「攻殻機動隊」のアニメシリーズは近未来が舞台です。現代日本に起こった様々な事件をモデルとして繋ぎ合わせるようにして作られています。そして「STAND ALONE COMPLEX」シリーズは薬害エイズ事件で大きな役割を果たした学生たちの運動をモチーフとして始まり、それがきっかけとなって公安警察が政界の巨悪を暴くという展開となります。その最初の医薬業界の不正を見つける人物が名乗ったのが「笑い男」でして、彼の行動を暗示するのが「ライ麦畑でつかまえて」という小説、となっていたわけです。以上、オタクでない常人には、わけのわからん話でしょうが・・・

 主人公ホールデンの未熟で自滅的な正義感を、とても懐かしく感じました。60年代、70年代の学生運動もこういう衝動から動いていたのではないでしょうか。

未成熟な人間の特徴は、理想のために高貴な死を選ぼうとする点にある。これに反して成熟した人間の特徴は、理想のために卑小な生を選ぼうとする点にある。

 これは、ホモっぽい先生がホールデンにした忠告です。ウィルヘルム・シュテーケルという人の言葉らしいのですが、確かに自己中心的で無責任で危くて害悪になりうる気質なんです。それは間違いない。でも、これがなければ停滞した不正が暴かれるということも起こらないのではないかということも思います。

 歳を重ねて、もうだいぶ、卑小な生になってしまいました。
 ボクには、ホールデンの気質が、残っているかな。