格闘美神 武龍 

格闘美神 武龍 六 [DVD]

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 スポーツ。男女の範疇で分かれている分野(ゴルフ、フィギュアスケート、柔道、卓球などなど)では女子選手の人気が高いですね。一方、相撲や野球、サッカーなど、「国技」というタイトルがちらつくものは、ほとんどが「男のスポーツ」ということになっていませんか?
 そして、プライド、K-1といった総合格闘技でも、マスコミに取り上げられるのは男子の試合ばかり。実はスマックガールのように女子総合格闘技ジョシカク)も存在するのですが、もう一つメジャーになりません。
 なぜジョシカクはメジャーにならないのかを考えますと、柔道やレスリングはまだしも、「女性はこぶしを振り上げて顔を殴りあうものではない」という社会通念があるからなのではないでしょうか。
 総合は、ある程度のルールがあるとはいえ、戦場での実技に近い内容になっています。その意味では、女性は「銃後の守り」を担うのであり、頑丈な兵士を生むための母性を育むべきだという意見からジョシカクに眉をひそめる方もいらっしゃいましょう。かよわい女性を守るのが男の仕事であって、男のテリトリーに女性は入ってはならないとおっしゃる方もいらっしゃいますでしょう。いや、これからは男女共同参画社会だから、女性兵士、ジョシカク大歓迎という展開もあるけれど。
 その一方で、戦争というのはホモソーシャル共同体を形成する男性が起こしてきたものであり、女性の考え方は本来、争うことを避けるものだというのが、戦争とジェンダー―戦争を起こす男性同盟と平和を創るジェンダー理論 (Somo‐somo sosyo)若桑みどりさんの主張でした。こちらからも「女性は戦わないもの」ということになるわけです。
 前置きが長くなりましたが、ジョシカクに参戦するこの作品の主人公、毛蘭(マオ・ラン)の使う拳法は「毛家居合拳」といいます。創始者の祖父、毛混(マオ・フン)も、門人も老人ばかり。屈強な男性ではなく、女子高校生の毛蘭が一門を代表する使い手となっているのは、この拳法が専守防衛をモットーとしているからなのでしょう。ここらに「女性は守るもの」という記号が見えますね。
 しかし、相手の攻撃を待つばかりでは格闘技にならない。イエローカードをもらってしまいます。そこで毛蘭が繰り出すのが、プロレス技なのです。闘争本能をむき出しにして、殺意をもって向かってくる敵に、ショーマンシップの高い、夢のある楽しい技で応戦する。現在連載中の第二部でも、無の境地に達した対戦相手に、あえて喜怒哀楽をもったまま戦うという、実に興味深い手法を展開しています。
 男性がつくりあげてきた総合格闘技という舞台で、男性が作り上げてきた手法をとらずに、男性が捨ててきたもの、男性が見ようとしてこなかったものを使って戦いを挑む。その先には、どんな新しい世界が見えてくるんだろうなぁ。
 この作品、なかなか興味深いです。アニメ第二部と、終盤に入ったコミックの結末が楽しみです。