リアル (6)

リアル (6)

リアル (6)

私は入院経験がほとんどなくて 10年前ほどに虫垂炎で一週間ほど入ったくらい それでも そのころは頭が仕事しなくちゃで凝り固まっていたから 寝ていることに耐えられず 無理に退院して 結局 自宅でしばらく寝て 家族に迷惑をかける羽目になった
このコミックは すでに車椅子バスケットで活躍している戸川清春 加害者意識を背負いながらも彼のコーチ役となりつつある野宮朋美の 友情と白熱した試合が描かれている事だが もう一人の主人公 高橋久信の絶望の日々の描写には圧倒される
「リアル」という題名は彼の台詞に出てくる 事故での脊椎損傷によって歩けなくなったという事実を彼はなかなか受け止め切れない それでも凄まじい苦痛は 事実が事実であるとして リアルに 彼に 迫り続ける それまで当たり前にできていたことができない 他人に介護されなければ何もできない ランク付けして見下していたものに見下され 凄まじい劣等感と孤独感に苛まれ 自傷行為と自殺願望に苦しむ
傍から見れば そこまで苦しまなくてもいい 現実を受け止めて 今の自分自身を見つめていけばそれでいいと言えるのだろうが そう簡単に行きはしない 6巻まで進んでも 彼はどん底にある 「ランク付け」と違う世界で生きてきた父と再会し 他者と己を比較する物差しが どのように形成されてきたかを振り返る歩みは始まっているけれども
思えば 釈尊親鸞も いわゆる「どん底」を経験してきたのだろう
釈尊にすればスジャータに助けられるというエピソードがそれを示しているか 王の位を捨て 全人類を苦しみから救うという崇高な志願を抱いたものが 修行に破れ 力なく村娘に介護されるということで 己の価値観をひっくり返されたのではないか そこから諸行無常 空 無という 右上がりの価値観を問い直す視点が生まれた 親鸞にすれば 30年過ごしてきた比叡山を降りた時か 法難によって僧籍を剥奪され流罪にあった時か 関東での飢餓の最中でなにもできずにただ経を読んでいた時か いずれにせよ 絶望のなかからこそ 悪人成仏の教えと「われら」という視点はは見出されたのだろう
7巻では高橋は登場しない 苦闘はまだ続いているのか 次の巻で彼はどのように再登場するのか 期待