スパイ・ゾルゲ

スパイ・ゾルゲ [DVD]

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 これを見る前に、「国際スパイ ゾルゲの真実 (角川文庫)」と「ゾルゲ事件 獄中手記 (岩波現代文庫)」をパラパラとめくったりもした。
 ゾルゲが遺した様々な資料などをもとにして、昭和初期から戦争への道を進んでいく日本の姿が、一本筋が通った感じで描かれている。自らの置かれている時代状況を分析するのはとても難しいことだが、ゾルゲたちのグループにはそれができていたし、敗戦の予測もできていた。そういう意味では、実に優れた活動家たちだったと思う。
 ただ、疑問に思うのは、スターリンの粛清によって拠り処であるコミンテルンが崩壊していくことを知りながら、それでも危険を冒してソ連に情報を送り続けたのはなぜかということだ。
 ソ連の内情を甘く考えていた? ナチスを倒し世界平和をもたらすため? ソ連に残した妻を案じて、自分の価値をアピールしたかった? 母の出生地を守りたかった?
 どうなんだろうな。あれだけの仕事をしたのだから日本に亡命することもできないし、ソ連に情報を送り続けることで自分の利用価値をアピールし続けることしか道はなかったんじゃないかな。結局、彼は国に棄てられた。
 あと、この映画では尾崎秀美が接触した近衛文麿にも光が当てられている。彼の周辺では軍部の台頭を抑えるために政党政治の立場から平和への模索があったという解釈だ。そういえば、近衛が残した蒋介石国民党との敗戦末期和平工作をしめす書簡が、明後日だっけ、出版されるな。
 「ゾルゲ事件 獄中手記 (岩波現代文庫)」にはソ連のスパイ活動に警鐘を鳴らす前文が置かれている。この映画は冷戦が終わった時期に作られていて、ゾルゲを世界平和を願った人物として描こうとしている。
 じゃあ、オレは彼をどう思いたいのかについては、考え中、だな。