いのちの器―臓器は誰のものか

いのちの器―臓器は誰のものか (角川文庫)

いのちの器―臓器は誰のものか (角川文庫)

 「火花―北条民雄の生涯」の作者が安楽死尊厳死、臓器移植の問題についてどう考えたのかを知りたくて読んでみた。
 第一章、1991年、東海大学安楽死事件安楽死についての正面からの議論はされることなく、大学病院や被告の保身の色合いが濃かったという描き方。裁判というものの実情を読み取ることができる。
 第二章、1992年、西明寺普門院診療所での尊厳死事件。「ドナーは檀那」を提唱する住職でもある医師が、積極的に臓器移植を進めた。しかしこの本のインタビューには「人間の臓器を移植するという行為は、10年後、20年後には、野蛮な行為とみなされることになるかもしれません。」という発言もある。最後に唐突に親鸞の名前がでてくる。
 第三章、ドナー、レシピエント、コーディネーター、それぞれの立場を踏まえて、臓器移植の実情が報告される。臓器摘出ということの危うさと、それを見守る家族たちの苦悩。法律や制度では、人の感情や関係を決してフォローできないことが明らかにされる。
 第四章、第五章、臓器移植を拒否している女性を取り上げる。臓器移植の抱えている問題を当事者として考えて拒否する人物。長渕剛との交流が出てくるが、私は彼の音楽があまりすきじゃなくて、このあたりは受けつけられない。
 それぞれの問題について、賛成、反対ということではなくて、そこに人のどんな気持ちが動くのかを、学ぶことができた。が、「火花」ほどの共感は得られなかった。