女性天皇

女性天皇 (集英社新書)

女性天皇 (集英社新書)

 この本は「道鏡事件」に代表されるように、少女マンガの題材として取り上げられるくらい、一種独特のロマンス、人情を、埋め込めるようにして語られてきた奈良時代の女帝の歴史を、先入観を極力消すようにして検証し直したものです。
 読み終わって、私は、女性蔑視が渦巻く中でもたじろがず、天皇というお仕事を全うしていった女帝たちを賞賛したくなりました。そして、平安以降、皇太子制を整備して実質女性天皇を認めないようになった社会は、それ以前の女帝たちの歴史を、蔑視するように粉飾してきたのでありましょう。

 私、フェミニズムに衝撃を受けつつ、それと一体には成れず、共感はするが、かなり拒絶感にも襲われるという、分裂状態に陥っております。それが、以下のような著者の立場表明を読んで、この状態を抜け出す、ひとつの手がかりではないかと思ったりもしております。

 最近の傾向として、ジェンダー論の視点から女帝が論じられることが目につく。持統女帝は実力で王権を奪取し、嫡系主義を定着させたのであって中継ぎではない、とか、女帝が中継ぎであるというのは性差を前提とした見方であって間違いである、といった議論である。ジェンダー論そのものに異論があるわけではなく、むしろ私も賛同する者の一人である。しかし性差の排除を強調するあまり、今日的な観点に捕らわれ過ぎては、古代の女帝の実態からかけ離れたものになってしまうであろう。女帝は明らかに男系社会の所産であり、そこに悲劇もあった。それを男帝と変わらない存在としたのでは、歴史性を無視した理解といわざるを得ない。

 そして、現代の女性天皇についての著者の考え方はこちらにありました。
 やはり、だれもが物事をご自分の専門分野に引き寄せるように考えるのね、私も含めて、という読み方をしてしまう、流星でありました。