シンポジウム 療養所の将来像を考えよう〜社会とのきずなを求めて


編・発行 ハンセン病市民学会
出版日 2007/8/21
頒価 500円
 2007年5月12・13日に群馬県草津町で開催されたハンセン病市民学会第三回交流集会におけるシンポジウムの記録。
 現在、療養所将来構想問題については以下のような流れになっている。

ハンセン病療養所の「将来構想問題」

 全国ハンセン病療養所入所者協議会(全療協)が中心となって「ハンセン病問題基本法を制定し、開かれた国立ハンセン病療養所の未来を求める国会請願署名運動」を展開しています。真宗大谷派もその賛同団体に加わっています。
 入所者には今後の医療や介護についての深刻な不安があります。基本法の制定によって、「隔離政策に苦しめられてきた入所者が、その晩年を社会から切り離されることなく、たとえ「最後の一人」になるときが来るとしても、社会の中で生活するのと遜色ない生活及び医療が保障され、安心して暮らすことができる」療養所の実現が目指されています。
 また、いまだに療養所が差別のまなざしの中にあり、社会とは離れた場所にあるという現実を、変えたいという願いが制定運動の根底にあります。その目指すイメージは、「開かれた療養所」です。たとえば、療養所が地域の人たちの福祉の場、医療の場となれば、そこは人と人との新たな出会いが生まれる場所となるでしょう。
 現在のハンセン病政策の法的根拠となっている「らい予防法の廃止に関する法律」は、療養所を入所者の療養以外の目的で利用することを許しません。「ハンセン病問題基本法」は、療養所を隔離から解放の場所へ転換するという理念をもっています。
 基本法制定運動についての理解を深め、大きな動きへと高めていくことが、現在の私たちの目前にある課題です。

 それで、このシンポの記録を読んで、これは大事なことだと思ったことがある。療養所を開放するということについての遠藤隆久氏の指摘だ。

 今のお話とつながるんですが、療養所を社会化するということが、下手をしたら療養所の中に差別をする人をも受け入れることにになってしまうわけです。自分たちも療養所の中で楽な生活をしたいと思う。しかし、入所しても一般の人たちは入所者の人とは違っておそらくなんらかの経済的負担をしますから、入所者の方たちは過去に厳しい苦難の歴史があって現在療養所の中の生活において、経済的負担がないということがわからずに、というか理解しようとしないで、「なぜ、あの人たちはタダで、自分たちはタダではないのか」という「ねたみ差別」が療養所の中で起きてしまう可能性があります。
 (略)療養所の中に差別する人間が入ってきて、療養所で生活している方たちが辛い思いをするような社会化では絶対ならないわけです。私たちは療養所の社会化を支援する際に、療養所の中で差別が起こらないように、社会から偏見・差別をなくすことをもっと真剣に考えなければならない。
 つまり、「ハンセン病基本法」を制定しようと私たちが運動することは、私たちはただ法を制定することだけにエネルギーを注ぐんじゃなくて、それはあくまで手段ですから、もっと偏見・差別のない社会を作って、入所者の方たちが安心して社会から人を迎え入れられるように努力をしながら、法制定のための努力をしなくちゃいけない。

 基本法制定で運動が完成するわけではない。
 差別と偏見がある限り、この運動は終わらないのだと思った。